2017年5月12日(金)TECH TALK LIVE 「アイドルソングの作り方」@Rock oN Company 渋谷店

 らぶどるやドルエレなどに楽曲提供するCHEEBOW氏の講演。個人的にはLasRabbiの「きっとぐっとサマーディズ」(元はPIP曲)、「Last Rabbit」、「絶望ロンリネス」の作曲者として身近な存在。

 LasRabbiがCDを出さないので権利関係が気になって聞いてみたのだけどライブアイドル界隈の請負形態は売切りが多いそうだ。つまりCDなどをリリースした場合の印税などは放棄した形。しかしながら業界の慣習に則って文書での契約などを交わすわけではないから信頼関係がないと後で揉めることも。先日、PIPを不本意な形で終わらせてしまったプロデューサとして濱野智史氏が(なぜか)謝罪会見をニコ動で生放送した際、PIPのある曲をどなたでもライブで自由に利用してよいと発言。それに対し作曲者が即座にツイッターで「ちょっと待て俺は聞いてないぞ!」と反応する場面があった。これは濱野氏が著作権に理解がないのではなく、おそらく買い取りの形態だったため使用権は買い取り側に移転しており作者への照会不要と考えたためと思われる。基本的には上記のように売切りの場合処々の権利は買い取り側に移転してると考えてよいと思われるが、文書契約を交わしていない曖昧な状況下において「仁義を切る」形で一言確認しなかったことが作者の逆鱗に触れたようだ。契約による権利移転の確証がない以上、作者側に著作権を主張できる根拠があるわけで、このあたりの機微についてCHEEBOW氏も「信頼関係」として言及していたのだろう。

 作曲の依頼の形態は大きく分けて二つ。上記のように直接依頼を受けるもの、そしてオーディションである。オーディションはAKBやハロプロなど大手では当たり前のように行われているが通常、作家事務所などに所属していないと声もかからないとのこと。個人で請け負っている作曲家はその点で人脈が大事になりそう。オーディションの場合、情報開示から提出まで10日程度しかないのでとにかく時間との勝負だとか。個々の依頼の場合にはもう少し余裕が持てるので3W程度あれば一曲仕上がるのだが並行して受けることも考え1か月程度見てもらっているとのこと。自分で作詞からアレンジまでこなす人であればもう少し詰められるのかもしれないがCHEEBOW氏は詞と編曲は第三者に委託するため受託者の工程分についても余裕をもたせている。

 さて肝心な曲の作り方だが、基本的にコードから入るとのこと。当日は王道進行ということでF→G→Em→Amを選択。少し味わいを変えるためEmとAmをセブンスに。そしてメロディ、ドラム、ベースと重ねていく。シーケンサソフトCubaseを使うとこのあたりの処理はかなりスムースに出来るようだ。また各楽器の音色も高価なソフトを入れておくとプリセットでかなり完成度の高いフレーズを入れ込むこともできるようだ。Blue2というソフトはコードを指定するだけで複雑なアルペジオのパターンを鳴らしてくれるためかなり使い勝手がよさそうに思えた。

 曲作りの際にはメロディーの断片をたくさんつくるよりもとにかくワンコーラスまとめてみることが大事だとか。いろいろなコード進行を勉強するためには楽器店や書店で売っている歌謡曲の歌詞とコード集がよいとのこと。それをもとに少しずつアレンジを加えることで独自のコード進行ができる。そこに乗るサビができたらBメロ、Aメロと作りこんでいく。アイドルの楽曲の場合、注意すべきは音域。CHEEBOW氏の経験則で大体今の女の子の声の出る範囲はC→E♭なのでほぼCmのコードに相当。そのため変化をつけるための転調も下方向にずらす短三度転調が便利。

 作曲の実演はCubaseにコードを打ち込んでそこにメロディやリズム隊、オケを入れていく形であっという間に出来上がっていく。自らは楽器はほとんどできないというCHEEBOW氏がPC上で作動するDTMソフトにインターフェイスとなる鍵盤キーボードで淡々と打ち込んでいく様は、これなら自分でも出来そう!と思わせるに十分だった。アイドルとしてある程度長期に活動することを考えている場合、自分で曲を作れるというのはコストの面からも音源使用の自由度から考えてもかなり有利だ。ピアノなど楽器の弾けるアイドルは作詞も含めて自力で楽曲作成に挑むのは悪くないのではないだろうか。