地下アイドルのファンにおける新規優遇と古参の雑な扱いについて

マーケティングの観点から

 マーケティングでは俗に新規顧客の獲得には既存顧客にかける5倍のコストが必要と言われている。新規顧客獲得に多大なコストをかけるよりは既存顧客の満足度を高めてリピーターとすることが重要との観点からCRM(Customer Relationship Management)を重視する根拠ともなっている。だから既存顧客である古参を優遇せよ…という話をするつもりはない。一般に新規顧客獲得コストが高いのは顧客になるかまったく見当もつかない(ある程度ターゲットを絞って特定の層に訴求することはある)消費者に対して広告を打ち、キャンペーンを張ってまずは自社製品/サービスの認知を高める必要がある。その上で興味を持った層の関心を高めるためにさらにDMを送付したり小売店の店頭で詳しく自社製品を説明するための要員を配置するなどしてようやく自社製品を手に取って検討してくれる消費者にアクセスすることができる。それに比較すれば一度自社製品を購入してくれた顧客を維持することの方が費用対効果が高い、というマーケティングにおける一般常識をここでは確認するにとどめる。

SNSの使い方について

 SNS、特にツイッターは地下アイドル界ではイベントやライブの出演時間が対バン形式であることから直前まで決まらないことなどもありタイムリーに情報発信するためにほぼ必須のツールとなっている。アイドル関係の情報を得ようとするファンの側もツイッターに依存せざるを得ない。よほどメジャーなアイドル以外、一般のツイッター利用者が自らのアカウントを訪問しフォローしてくれる可能性は無きに等しい。ツイッターが最も威力を発揮するのはリツイート(RT)による拡散である。そのためアイドルとしては時分のツイートをフォロワーがRTにより拡散してくれるツイートをいかに生み出すか、という点に注力するものもいる。元81momentのシイナナルミはミオヤマザキなどの歌詞に載せて若者のコミュニケーションを風刺した動画の投稿により絶大な人気を博したしベボガのぺろりん先生はオタクの生態を描いた絶妙なイラストによりバズることに成功した。しかしながらおもしろいツイートを狙って当たる確率はどれほどのものなのだろう。ツイッターによる新規獲得の可能性を否定するわけではないが過度にここに時間を費やすのは費用対効果が低いように感じる。最近「#ファボ(いいね)してくれたアイドルとチェキ撮る」などのハッシュタグが一時的に流行したが、これを呟いた利用者が実際にライブに訪れて物販に来てくれる可能性はメールマガジンのクリックレートである0.5%程度ではないか。200人にファポして一人来てくれるかどうかという確率である。

 それよりも既存のファンに対するサービスの深化のためにその時間は費やすべきではないか、というのがここでのポイントである。アイドルがファンのツイートを「掘る」と表現することがある。アイドルがリプやRT、エゴサによる検索の結果ではなくわざわざ特定のアカウントを確認し自分への言及に関わらずつぶやいた内容までチェックすることを指す。エゴサによる新規へのファボよりも既存ファンのツイートを「掘って」ファボせよ、というのもここでのメッセージではない。誰もが見える状態で特定のファンのツイートのみにファボることは他のファンに不公平感を与え逆効果となる。リプ(返信)や自分への言及に対してのみファボ、との基本ルールを課しているアイドルが大半と思われるためそれを前提に置いての提言となるが、特に大事にしたい既存ファンのツイート内容は覚えておいて物販で言及することが重要である。ファンはパーソナルな経験を求めている。ファンが高い費用をかけてアイドルとチェキを撮るのは単にアイドルに会うだけではなく、アイドルが自分だけに費やしてくれる時間を最高の個人的体験とするためである。SASのヤン・カールソンがCAが長いフライトで顧客と対面するのは15秒に過ぎないがそれこそが「真実の瞬間」であると述べサービスの真髄を表した言葉として定着している。アイドルの物販はステージでのパフォーマンス同様、ファンにとっての「真実の瞬間」であることは間違いない。アイドルはここに全精力を傾けるべきである。例えばコミュ症気味で自分からはうまく話題を振れないファンがいるとしよう。ここで立て板に水のように自分の話したい内容をひたすらしゃべることで無言の気まずい時間は避けられるかもしれない。だが、ファンはこれで満足するだろうか?不器用ながらもファンに対する関心を示そうとする態度により満足を覚えるのではないだろうか。そのためにこそ、ファンのツイートを確認し話題を振るためのデータベースを常に整備すべきである。おそらくファンは感動するだろう。その感動がまた会いたいと思わせ次の行動に向かわせるのではないか。少なくとも宝くじよりも確率の低いエゴサによるファボなどに時間を費やすよりは一度でも物販に来てくれたファンのアカウントは常に確認すべきである。その際にすべきでないのは他のアイドルに会ったことを避難するような行動である。監視されているようで嫌だというファンもいるためアプローチには注意したいが基本的に自分に関心を持ってもらっていると知って悪く感じるファンは少ない。一般にアイドルファンの認知承認欲求はとても高い。この点についてはまた別の機会に話したい。

・ステージでのMCについて

 MCを告知で終わらせるアイドルに苦言を呈すファンは多い。その時間は自己アピールに費やすべきである。あまり本人のパーソナリティと関係のない、さらにいえばファンには関心のない、単に自分の好きなものについて饒舌になる(ディズニーランドに行ったと興奮して話すMCなど)アイドルは貴重な時間を無駄にしている。パフォーマンス同様MCは自らのキャラクターを形成する上で大変重要であると同時にファンとのコミュニケーションでもある。自分のファンが楽しんでくれるような話題に関するエピソードを常に用意しておかなければならない。明石家さんまトーク番組に臨む若いアイドルに対し執拗に「おみやげ」が必要と説くが、そのようなエピソードを用意するためにもファンが何を喜ぶか常にアンテナを張って考え続ける態度が必要である。