2017年11月26日(日) IDOL_RAW Vol.12@小松THE MAT’S

 石川県小松市でのアイドルライブ。ちょうど石川の学生との交流イベントが開催されていたためこれに乗じて来訪、アイドルライブのリサーチということで留学生を中心に参加者を募ったところバングラデッシュからの留学生1名とアイドルライブ未体験の日本人学生1名の参加を得ることができた。「異なる文化間でのアイドル受容について」というテーマたが、とにかく新鮮な目で見て気づいた点についてレポートしてくれという依頼である。まだ返信はないが楽しんでくれたようなので内容には期待している。

 さてTHE MAT’Sは小松駅の高架下につくられた公営のライブハウスでこの手のものとしとは非常に珍しい存在。入場時にドリンク代を請求されないというありがたい点を除いてはけだるそうなお姉さんが受付でもぎりをしていたり東京のライブハウスと何ら変わることはない。

 IDOL_RAWは新生おやゆびプリンセスの定期ライブということである意味本拠と言えるのか。セットリストでもとりを務めていた。今回は地元北陸からおやぷり、西金沢少女団からソロで三組、ひろか、(不明)、オモテカホの三名である(以下敬称略)。名前不詳の少女がおそらく今回最年少と思われる。ひろか、オモテカホは先々週ポニカロード四周年で見ていたが二人とも歌唱力は高い。かほりんは北陸ローカルではあるもののNKHにも出たということでトークも乗りに乗っていた。北陸からは他に福井のアミーガスとその派生ユニットのせのしすたぁ。アミーガスは6周年ということで夜の部は7名勢ぞろいとのことであったが、昼の部は残念ながら2名。しかしこの2名は大変可愛らしくまたパフォーマンスも全力で曲もよく思わず目が釘付けになった。アミーガスよい。せのしすたぁはおそらく知名度ナンバーワンだが、噂にたがわずまお氏のカリスマ性が凄い。相方のゆーたんは何を言い出すかわからないキレ芸で有名なボケ担当を絶妙にコントロールする漫才師の突っ込み役を彷彿とさせた。トークのハードライナーっぷりからパンクロック的な曲による激しいノリなのかと思ったらコテコテのディスコサウンドでズッコケてしまった。それにしてもまお氏はすごい。とてもコミュニケーション取れそうにない人間というのがたまにいるものだがまさにそれ。そのせいなのかどうなのか知名度の割に物販は空いていた(のでアミーガスのみゆう氏とチェキ)

 北陸外からのゲストは岐阜の7FACE8と蜂蜜★皇帝に東京からオーケストラアイドルRY’sとテレジアの鈴木花純。RY’sはヴァイオリンのRIOとボーカルのじん、るかの三名という変則編成。クラッシックの名曲をフィーチャーしたアイドルポップスというとC.ONのようにオタクには敷居が高すぎて遠巻きに見られてしまいがちなのだが、ヴァイオリンの良さはいかしつつアイドルらしい下世話な部分も併せ持つ懐の深さでオタクにも楽しめる仕様になっていた。RIOの美しさが突出していたため目立たないが他の二人も十分可愛いかった。物販にも興味はあったがCDを積むスタイルらしいのでここはやはり敷居が高そう。曲は悪くなかったので買えばよかったと少し後悔。一人で来ていたら買いあさっていたかも。なきっぱち、はちペラは相変わらずキレのいいダンスで魅了。バングラの留学生もはちペラれみ氏のキレには驚いていた模様。本物を見分ける目に国境はないようだ。なきっぱちもRY’s同様クラッシックの名曲を全曲織り込んでいてこれもなかなか趣味がよいので音源が欲しいのだが物販では売っていないようだ。

 そしてとりのおやぷり。一番若い子が不在で四名のステージだが迫力は損なわれない。それにしてもこのSEは格好いい。全体に和楽器やよなぬきなどの和旋法を意識した曲に対してオタクの入れるコールにふとオタクのオイオイいうコールは祭りの神輿を担ぐ際の掛け声のようにも聞こえるし実際、そのような意味合いがあるのではとの考えも浮かんだ。輪に入って一緒に沸いていたらこのような気づきはなかったであろうだけに貴重な収穫。アイドルが巫女さんに例えられることも多い中、オタクのコールがご神体を担ぐ若衆の掛け声に類似しているというのはなんらかのインプリケーションがあるのではないか。興味深い連想である。

 全体にビジュアルレベル、パフォーマンスレペルともに高く大変満足度の高いイベントであり北陸恐るべしという感じではある。金沢周辺は観光資源も豊富であり機会があればまぜひ遠征して楽しみたいコンテンツのひとつである。アイドルツーリズムの研究はどちらかというと人文領域での研究論文の多いアイドル分野において社会科学系ということで意義が大きいが、ひめキュンのような成功したローカルアイドルの方法論はある程度横展開可能であるようにも見え、今後の比較研究の成果がまたれるところである。

https://twitter.com/3s_idol/status/935060283252342784

2017年11月20日(月) Juice=Juice LIVE AROUND 2017 FINAL at 日本武道館 〜Seven Squeeze!〜

 JJのライブは昨年の武道館以来だが、あの光が天井から降りてきてメンバーの掌に収まる演出は昨日のことのように覚えていてあまり久しぶりという感じでもない。開演直線までグッズ列に並んでいたためつばきのOAは見逃したがそれはまた今度。一曲目のWonderful Worldはいきなりの英語versionでワールドツアーの一環であることを前面に押し出す構成。世界を回って自信をつけたのかはたまた新メンバー加入がいい刺激になったのかまず感じたのは各メンバーの歌唱力向上。高木紗友希はまたさらに表現力の幅を増していたしオリジナルメンバーの安定感も頼もしい。何といっても植村あかりの向上力が凄かった。ファルセットの使い方を覚えたのか高音にかかるフレーズの響きにふくよかさがあってとてもムーディー。去年の武道館の感想でもうえむーはうまくなったなと書いていたと思うが、努力を怠っていないのだろうな。加えて新メンバーも実力派で一定の水準にあり、歌の面で穴がないというのは凄いグループだなと。とにかく各メンバーの歌を堪能してるだけで時は過ぎていくのだが、時折挟まれる新曲がまたどれも良曲でJJのコンサートは本当に楽しい。TOKYOグライダーのファンキーな感じでJJメンバーのパンチの効いた歌唱法にマッチしていてとても良いのだが、Never Never Surrenderのセルティックなバクパイプのドローンから始まる曲調が完全にツボ。歌詞も前向きで力強くライブ映えする曲。

 セットリストに関してツイッターなどでは℃-uteのThe Powerが入ってることに文句を言っている人がいたが、その割には客席から「オイ!」の入るタイミングが結構揃っていて大多数のオーディエンスは楽しんでいたように見えたが、心の中ではこんな曲いれやがってと思いながらもタイミングが来たらつい「オイ!」と入れたくなるのだろうか。よくわからない。よくわからないけれどもJJの曲はそれほどビデオなどで予習していなくても曲をよく聞いていればコールを入れるタイミングなど分かり易いし自分のようなユルヲタにも優しい現場だと思う。また背伸び、Girls be ambitiousやGoal~明日はあっちだよのようにオーディエンスが歌えるパートのある曲もあり他のハローのライブと違って純粋に音楽を楽しめつつまた会場の一体感みいたなものも感じられて今の若い人たちの言い方で表現するならとてもエモい現場ということになるのだろう。

 今回は昨年の220ツアーの集大成みたいな感動的な演出は一切皆無だったのだが唯一ほろりとしたのが新メンバー段原瑠々ちゃんの4年間辞めなくてよかった、と心情を吐露した部分。サイリウムの色でいうと旧メンバーの赤黄緑桃紫は大体ばらける中、やなみんの青が意外にも多い印象で結構カントリー流れがいることを感じさせたが瑠々ちゃんのオレンジはまだあまり目立たない状態。実力者で曲者揃いのJJの中で頭角を現すのは難しそうだが頑張ってほしいものだ。その他MCで印象に残ったのは佳林ちゃんのスネ芸。すっかり定着した感じ。

 今回は舞台のセットがシンプルですべてプロジェクションマッピングで表現する形になっていたが、歌で勝負できるJJにはあれで十分なのではないかとの印象。派手なセットも悪くはないが十分に楽しめたと思う。全体に通常営業感の強いステージだったが、武道館という舞台を特別な場としてではなく日常の延長としてパフォーマンスを行い、そしてあれだけの人数の観客を楽しませることのできる演者になったのだなあという感慨。チケットも比較的取りやすく有り難い存在。

 

セットリスト<Juice=Juice LIVE AROUND 2017 FINAL at 日本武道館 〜Seven Squeeze!〜>

https://www.barks.jp/news/?id=1000149128 より

 

2017年11月20日 日本武道館

O.A1 就活センセーション/つばきファクトリー

O.A2 初恋サンライズつばきファクトリー

M01 Wonderful World (English Ver.)

M02 生まれたてのBaby Love

M03 イジワルしないで 抱きしめてよ

M04 Fiesta! Fiesta!

M05 TOKYOグライダー

M06 CHOICE & CHANCE

M07 地団駄ダンス

M08 The Power

M09 背伸び

M10 Never Never Surrender

M11 Ça va ? Ça va ?

M12 愛・愛・傘

M13 GIRLS BE AMBITIOUS 2017

M14 銀色のテレパシー

M15 カラダだけが大人になったんじゃない

M16 裸の裸の裸のKISS

M17 私が言う前に抱きしめなきゃね

M18 伊達じゃないよ うちの人生は

M19 Magic of Love (J=J 2015Ver.)

M20 この世界は捨てたもんじゃない

EN01 KEEP ON 上昇志向!!

EN02 Goal〜明日はあっちだよ〜

EN03 ロマンスの途中

地下アイドルのファンにおける新規優遇と古参の雑な扱いについて

マーケティングの観点から

 マーケティングでは俗に新規顧客の獲得には既存顧客にかける5倍のコストが必要と言われている。新規顧客獲得に多大なコストをかけるよりは既存顧客の満足度を高めてリピーターとすることが重要との観点からCRM(Customer Relationship Management)を重視する根拠ともなっている。だから既存顧客である古参を優遇せよ…という話をするつもりはない。一般に新規顧客獲得コストが高いのは顧客になるかまったく見当もつかない(ある程度ターゲットを絞って特定の層に訴求することはある)消費者に対して広告を打ち、キャンペーンを張ってまずは自社製品/サービスの認知を高める必要がある。その上で興味を持った層の関心を高めるためにさらにDMを送付したり小売店の店頭で詳しく自社製品を説明するための要員を配置するなどしてようやく自社製品を手に取って検討してくれる消費者にアクセスすることができる。それに比較すれば一度自社製品を購入してくれた顧客を維持することの方が費用対効果が高い、というマーケティングにおける一般常識をここでは確認するにとどめる。

SNSの使い方について

 SNS、特にツイッターは地下アイドル界ではイベントやライブの出演時間が対バン形式であることから直前まで決まらないことなどもありタイムリーに情報発信するためにほぼ必須のツールとなっている。アイドル関係の情報を得ようとするファンの側もツイッターに依存せざるを得ない。よほどメジャーなアイドル以外、一般のツイッター利用者が自らのアカウントを訪問しフォローしてくれる可能性は無きに等しい。ツイッターが最も威力を発揮するのはリツイート(RT)による拡散である。そのためアイドルとしては時分のツイートをフォロワーがRTにより拡散してくれるツイートをいかに生み出すか、という点に注力するものもいる。元81momentのシイナナルミはミオヤマザキなどの歌詞に載せて若者のコミュニケーションを風刺した動画の投稿により絶大な人気を博したしベボガのぺろりん先生はオタクの生態を描いた絶妙なイラストによりバズることに成功した。しかしながらおもしろいツイートを狙って当たる確率はどれほどのものなのだろう。ツイッターによる新規獲得の可能性を否定するわけではないが過度にここに時間を費やすのは費用対効果が低いように感じる。最近「#ファボ(いいね)してくれたアイドルとチェキ撮る」などのハッシュタグが一時的に流行したが、これを呟いた利用者が実際にライブに訪れて物販に来てくれる可能性はメールマガジンのクリックレートである0.5%程度ではないか。200人にファポして一人来てくれるかどうかという確率である。

 それよりも既存のファンに対するサービスの深化のためにその時間は費やすべきではないか、というのがここでのポイントである。アイドルがファンのツイートを「掘る」と表現することがある。アイドルがリプやRT、エゴサによる検索の結果ではなくわざわざ特定のアカウントを確認し自分への言及に関わらずつぶやいた内容までチェックすることを指す。エゴサによる新規へのファボよりも既存ファンのツイートを「掘って」ファボせよ、というのもここでのメッセージではない。誰もが見える状態で特定のファンのツイートのみにファボることは他のファンに不公平感を与え逆効果となる。リプ(返信)や自分への言及に対してのみファボ、との基本ルールを課しているアイドルが大半と思われるためそれを前提に置いての提言となるが、特に大事にしたい既存ファンのツイート内容は覚えておいて物販で言及することが重要である。ファンはパーソナルな経験を求めている。ファンが高い費用をかけてアイドルとチェキを撮るのは単にアイドルに会うだけではなく、アイドルが自分だけに費やしてくれる時間を最高の個人的体験とするためである。SASのヤン・カールソンがCAが長いフライトで顧客と対面するのは15秒に過ぎないがそれこそが「真実の瞬間」であると述べサービスの真髄を表した言葉として定着している。アイドルの物販はステージでのパフォーマンス同様、ファンにとっての「真実の瞬間」であることは間違いない。アイドルはここに全精力を傾けるべきである。例えばコミュ症気味で自分からはうまく話題を振れないファンがいるとしよう。ここで立て板に水のように自分の話したい内容をひたすらしゃべることで無言の気まずい時間は避けられるかもしれない。だが、ファンはこれで満足するだろうか?不器用ながらもファンに対する関心を示そうとする態度により満足を覚えるのではないだろうか。そのためにこそ、ファンのツイートを確認し話題を振るためのデータベースを常に整備すべきである。おそらくファンは感動するだろう。その感動がまた会いたいと思わせ次の行動に向かわせるのではないか。少なくとも宝くじよりも確率の低いエゴサによるファボなどに時間を費やすよりは一度でも物販に来てくれたファンのアカウントは常に確認すべきである。その際にすべきでないのは他のアイドルに会ったことを避難するような行動である。監視されているようで嫌だというファンもいるためアプローチには注意したいが基本的に自分に関心を持ってもらっていると知って悪く感じるファンは少ない。一般にアイドルファンの認知承認欲求はとても高い。この点についてはまた別の機会に話したい。

・ステージでのMCについて

 MCを告知で終わらせるアイドルに苦言を呈すファンは多い。その時間は自己アピールに費やすべきである。あまり本人のパーソナリティと関係のない、さらにいえばファンには関心のない、単に自分の好きなものについて饒舌になる(ディズニーランドに行ったと興奮して話すMCなど)アイドルは貴重な時間を無駄にしている。パフォーマンス同様MCは自らのキャラクターを形成する上で大変重要であると同時にファンとのコミュニケーションでもある。自分のファンが楽しんでくれるような話題に関するエピソードを常に用意しておかなければならない。明石家さんまトーク番組に臨む若いアイドルに対し執拗に「おみやげ」が必要と説くが、そのようなエピソードを用意するためにもファンが何を喜ぶか常にアンテナを張って考え続ける態度が必要である。

アイドル市場における二重経済問題

 古巣のワンマンに参加した。古巣、というのは正確ではない。なぜなら筆者の推していたグループを同じ事務所の他のグループと糾合する形でメンバーも大幅増員の果てに結成されたグループだからである。この新規グループは当初から上(とは何処か?という根源的な問いは後々付いて回る)を目指すことが明らかで、当該グループを運営する事務所が拠点とする小さなライブハウスを拠点とはせず外部の対バンを積極的に組んでそれなりに実績のある作曲者による楽曲も準備。用意周到にアイドル市場に参戦してきたのだ。大きなイベントでのビラ配りや無料写メなどの施策により瞬く間に認知度を向上させた。最たる結果はTIF2017出場をかけたShowroom主催イベントでの勝利によるTIF参加である。この過程で24時間Showroom配信やメンバーによるマラソンなどファンの庇護心を掻き立てるような企画を敢行しそのロイヤリティを醸成。ファンの裾野も広がり順風満帆で迎えたワンマンと思われた。推しの卒業から約半年ぶりに見る快進撃のグループの舞台は300人収容の大きな箱。観客は多い。超満員とはいかないものの空間が目立つということは無い。観客もサイファーの常連だけでなく見たことのない若い人もいる。違和感は子連れの若い夫婦とその家族風が多いこと。メンバーのご家族だろうかと思ったがそれにしては若すぎる。疑問はセットリスト上のある一曲により氷解した。ゲストキャストとして恐らくダンススクールの生徒であろう子供たちを大挙出場させていたのだ。我が子の晴れ舞台を提供し観客として集客する。運営の頭の良さにうならざるを得なかった瞬間だ。だがどうだろう。控えめに言ってエキストラの関係者の観客に占める割合は決して低くないように見えた。

 大所帯でのステージは初めて見たがそれなりに練習を積んでいる(ことは知っている)ので悪くはない。私生活を犠牲にして全人的な努力を注いできた健気な少女達が大舞台で輝いていると思えば感動的ですらある。だがそのような予備知識なしに見たとしたらどうだろう。アイドルの中には圧倒的なビジュアルとパフォーマンスで観客の心を捉えてしまうグループも少なくない。だこの晩の彼女達はそうしたタイプではないだろう。むしろそうした誰もが刮目する存在ではない普通の女の子が全てをかけてステージに挑む姿が感動を生むという点でハイコンテクストなコンテンツと捉えることが自然だ。コンテクストとは文脈であり物語である。物語性は観客個人との関係性において育まれる。つまり端的に言って彼女達は典型的な地下アイドルである。物販で培ったパーソナルな関係性を基に経済的基盤を積み上げていく。こうした物販におけるファンとのコミュニケーションに関係性の維持を依存するモデルはいずれ物販及びSNSにおける物理コミュニケーションの量的飽和限界に達する。つまり一時間の物販で捌くことのできる顧客の数は限られており、同様にツイッターでアイドルのコメントに対するファンのリプライに返信できる人数も限られているということだ。こうした物理限界を引き延ばすためアイドルの運営は集客の増加にともない物販におけるチェキの会話時間を短縮化し、その時間管理を厳格化していく。同様にツイッターのファンへのリプライも限定的(例えば予約に対してのみリプなどの制限を設けている事務所は少なくない)となる傾向にある。さらに人気が高まるにつれ物理限界による機会損失を回避するためチェキ自体の単価が上がる方向で経済的な制度修正がなされることになる。ここに至り従来と同じあるいは劣るサービスに対する顧客満足度の低下は避けられず、既存顧客の価値は著しく棄損されるため一定の比率で既存顧客は離れていき顧客構成は徐々に新規の顧客の比率を高める形で入れ替わっていく。このため右肩上がりで伸びてきた顧客増加曲線は傾きがなだらかになりここで成長が足踏みするような形になる。物販を主な経済基盤とするモデルの限界である。アイドルはそれ以外の魅力でライブの集客や音源、グッズの販売を増やさなければ伸び悩みどころかファンの不満を抑えることができず急激なファン離れを誘発する可能性さえある。具体的に言えばこの時点で物販に依存しないビジネスモデルに移行しないとこれ以上の成長は見込めない。よくて足踏み、悪くて急降下、解散の流れである。地下から成りあがった運営事業体はこの段階で人気が急降下した場合、グループの維持さえも難しく、解散、あるいは活動休止の道を選択せざるを得ない。この差がメジャーとそれ以外を分かつ分水嶺である。グローバル経済における「中所得国の罠」を彷彿とさせるアイドル市場における経済の二重構造ではないか。

 途上国が低廉な労働コストを武器に経済成長を果たし先進国入りを目指すものの一人当たりGDPが10,000ドル前後に達すると急速成長が鈍化し停滞することを「中所得国の罠[i]」と呼び、アルゼンチン、チリ、メキシコなどの中南米諸国、マレーシア、タイなどのアジア諸国がそのトラップから抜け出せず苦しんでいると言われている。ノーベル賞受賞経済学者であるアーサー・ルイスはこれを途上国の工業に基盤を置く都市型経財と農業主体の郊外型経財の二重経済に起因すると分析する。農村の豊富な人材供給を背景に供給量を増やすことで工業部門が発展し続ける間は同国の経済をけん引するが、農村からの労働力供給が一定の水準に達し、農業部門からの労働力移転が起こらなくなると工業部門での採用市場での需要と供給のバランスが変化し労働コストの上昇を招く。そのため経済成長をけん引した輸出産業の国際市場での競争力が低下し、中所得国の状態で足踏みが続くという説明である。この労働力市場の受給の転換点をもって「ルイスの転換点」と呼び中所得国の罠に陥る分水嶺としている。

 今年に入って中堅アイドルの解散事例が相次いでいる一方で48グループはNGT48やSTU48などが順調に立ち上がり、乃木坂46欅坂46の隆盛を見るに、アイドル戦国時代と言われたここ数年以降アイドル市場を支えてきた中堅から地下に至るアイドル市場のすそ野の部分で疲弊が顕著になってきたことを実感する。矢野経済研究所によるアイドル市場調査レポート[ii]によれば2015年のアイドル市場は前年比+30%の高成長とされている。数字が高すぎるので対象項目の見直しなど何らかの区分変更が加えられた可能性は高いが、それでも同市場を成長市場ととらえる一つの根拠にはなる。またTIF2017も欅坂46の出演が呼び水となり昨年から1万人増となる過去最高の8万人の入場者を記録する[iii]など数字で見る限りアイドル市場全体が落ち込んでいるというわけではないようだ。筆者の実感でも雨後の筍のように沸いては消えていく泡沫アイドルの循環を見るに市場自体はダイナミックに推移しているとの印象を受ける。

 数カ月ぶりに参加した古巣のチェキは1分に短縮されていた。従来の長さが1分半なのか2分だったのかは判然としない。ファンが少なすぎて厳密に計測それることはなく会話が途切れるまで無制限に近い時間会話することができていたからだ。さらにファンが増えて物理的に捌き切れなくなったときに単価が上がるだろう。売れれば売れるほど古くから支えているファンの価値を棄損していく構造的欠陥。地下アイドル界の勢いのある時期には離れていくファンを上回る新たなファンの流入がこれを支えていたが今やこの流れは途絶えつつあるというのが現状であろう。数少ないファンの奪い合いの中で古巣は大変うまいこと上昇機運に乗れたと思う。しかしながら結成から半年足らずで地下アイドル界を駆け上ってきたこのグループは既に軋みが聞こえてきそうな危うい均衡の上で揺らいでいるように見える。筆者はこのグループの現状を揶揄するつもりはない。古巣というだけあって愛着のあるメンバーもいる。メンバーが体力的に追い込まれているのではないかと心配もしている。中所得国の罠は最終的に外資を引き付け続けるテクノロジーの蓄積、あるいは外資が引き上げてもそれを補える内部資本の蓄積により克服される。メンバーとファンが疲弊しきる前にそれらの資本を蓄積できるかどうか。距離を置きつつも継続して見守りたい。

 

[i]  内閣府HP:世界経済の潮流 2013年II 第2章 第1節 中所得国の罠の回避に向けてhttp://www5.cao.go.jp/j-j/sekai_chouryuu/sa13-02/html/s2_13_2_1.html

[ii] 矢野経済研究所プレスリリース 2016年12月7日『「オタク」市場に関する調査を実施(2016年)』 https://www.yano.co.jp/press/pdf/1628.pdf

[iii] 文化通信 2017年8月11日『TIF2017、来場者数過去最高8万人超』http://www.bunkatsushin.com/news/article.aspx?id=134263

2017年7月25日(火)つばきファクトリー新曲リリースイベント@ららぽーと豊洲

 つばきの首都圏二カ月ぶりとなるリリイベとのこと。仕事の合間に16時からの第一部に参加。開始5分前に着くと既に1部の優先エリア、握手券ともに配布終了。夏休みのせいか。昼休みに下見に来たときは誰もいなかったのに。つばき恐るべし。今回から椎間板ヘルニアで療養中の浅倉樹々ちゃんがMCと握手会のみ復帰。なんだか歩き方もそろそろと慎重な感じ。心なしか表情もさえないようで完調ではないのかも。衣装は残念ながら(?)就活生バージョンではなく花柄の夏らしいもの。つばきをまともに見るのは有明のデビューイベント以来だが研修生から繰り上がりの三人がよく馴染んでいて樹々ちゃん不在のマイナス面をあまり感じさせない。表情がさえなかったのはその辺りの焦りもあるのかも。特に秋山眞緒ちゃんのフレッシュさは結成後すでに2年を超えた初期メンが貫禄を備えてきたのと対照的に初々しくてよい。希空ちゃんがケバクナッテキタヨ…樹々ちゃんが療養中に残りのメンバーが成長したか聞かれて「ユニゾンが力強くなった」と答えていたけれどたしかに新メン三人が加わってから従来ちょっと弱弱しいイメージのあったボーカルが力強くなったとは感じる。中でも小野瑞歩の声が野太くてユニゾンの芯になっていて頼もしい。このメンバーでも十分にパフォーマンスが成り立っているのでこの中に樹々ちゃんの戻る場所があるのか心配になってしまった。リリース週ということでリリイベのあるレコードショップだけでなく、都内の大手ショップには二手に分かれて営業をかけるという地道な行動からも力を入れていることを感じる。去年のTIFは人気に比べて大きめの箱だったので余裕で入れたが今年は厳しいことになりそうか。それでもハロコン2回行くよりTIF3日間通し券の方が安いので考えてしまうね。

7/25豊洲1部セトリ
①笑って
②独り占め
MC:自己紹介
③初恋サンライズ
④ハナモヨウ
⑤青春まんまんなか!
MC:告知
⑥就活センセーション
有頂天LOVE

2017年6月23日(金)モーニング娘。'17 コンサートツアー春 ~THE INSPIRATION!~@日本武道館

 久しぶりの娘。さん。13期お披露目以来ということで自然と13期に目が行くことに。ただそのように意識しなくとも横山は人目を惹く逸材。すべてをすっ飛ばして娘。入りしたのも頷ける。ダンスや歌が突出してうまいということはないものの自分を可愛く見せる術をよく解ってるなという印象。基本的にパフォーマンスバカで可愛く見せるという点については空回りしがちなメンバーが大半の娘。において加入直後からそれが出来ているのは驚き。なんというかいわゆる昭和のザ・アイドルのような風格を既にして感じる。べた褒めしているわけではなくて娘。には今までいなかったというかあえて取るのを避けてきたような完璧アイドル系のキャラクタなので困惑しているというか。パフォーマンスバカの極北みたいな加賀ちゃんを同時に加入させたのはその辺りの毒気を中和させるためかと穿った見方をしたくなるほどに。なのでこれまたパフォーマンスの権化のごとくに鬼気迫る歌唱で観客のハートを鷲掴みにするふくちゃんと相対したシルバーの腕時計は見事な対比となった。田中れいなの印象が強い曲だがふくちゃんの歌は見事。前回の白眉が小田ちゃんの線香花火とすれば今回はこれ。そして舌足らずな歌唱でふくちゃんの熱唱に水を差す横山。それでもまったく不快に感じさせないのが凄いところだ。先日発表された森戸知沙希も明らかに横山タイプ。実はダンスもうまいというのは置いといてアイドル性一本で栃木のロコドルからアイドル界の頂点である娘。メンにのし上がった森戸に対するふくちゃんの複雑な表情が今後の方向性を示唆するだけにファンも敏感に何かを感じ取ったのだろう。歓迎一辺倒というわけにはいかなかったようだ。シルバーの腕時計はそうした方向性を示すという点で象徴的な場面だったなと。

 今回のセットリストはまずツアータイトルからして懐メロ(恋レボのB面)なので羽賀ちゃんなんかはまだ生まれてなかった時の曲なわけだ。序盤のメドレーはそんな旧曲と比較的最近の曲のミックスでこういうのは音楽にこだわるアップフロントならではと思う。とはいえ旧曲もupdatedアレンジで最近の曲へとシームレスに移行するので昔の曲知らなかったらまったく気づかないくらい自然。それにしてもウィアラのぶんぶんいうとこのジャンプとかWe are aliveのあとのチャッチャッていうクラップとか久しぶりにやって気分がよい。これは演者の負担も大きいがヲタも疲れる曲だったなあという感慨を抱きつつ最近の曲と混然一体となるこの流れは悪くない。この手のメドレーは以前にもやったような気がするのだけれど今回は選曲の妙とアレンジの巧みさで知的興奮度が高かった。

 そして会場でも大うけだったのが羽賀ちゃんのビデオ。まあおじさんは腹を抱えて笑ったし両隣の女子もキャーキャー言って喜んでいた。5割近くが女子という観測報告もあるほど女性比率の高い客層を意識したのか絶妙なコンテンツに仕上げてきた。誰か知恵者がいたのだろうか。メンバーが寸劇で台詞を回すよりもビデオに手紙の朗読という形式が見事にはまった感じだ。娘。は無理やりコントを仕込んだり芸人を意識したぎこちないMCに頼らなくても笑いを取れるいいコンテンツを見つけたのではないか。ああおもしろかった。

 空席がまったくないのでスベースがない中さらに追い打ちをかけるように両隣が女性ということでなるべく手や腕が振れないよう気を付けて大きな振りを取れず窮屈だった点と新曲「青春Say A-HA」があまりパットしなかったこと以外は全体に満足度の高いコンサートで2時間半ほどのステージはあっという間。ツアー終了後舞台を挟んでいるものの時間を空けたせいか全般に歌の部分は安定していたように思う。あまり聞く機会のなかった生田や飯窪さんの歌が聞けたのも貴重な体験。いろんな意味でメジャーの底力を見せつけられた公演。

 

セトリ:2chモ娘(狼)一人スレより

OA 就活センセーション(つばきファクトリー)

OPENING VTR

1 BRAND NEW MORNING

2 メドレー

One・Two・Three

~そうだ!We're ALIVE(updated) × Help me!!

恋愛ハンター(updated) × 恋愛レボリューション21(updatad)

3 SONGS

4 そうじゃない

5 愛の軍団

MC1(挨拶)

6 私のなんにもわかっちゃない

7 セクシーキャットの演説

8 Tokyoという片隅

MC2(小田野中牧野)

9 シルバーの腕時計 (譜久村・横山、ラップ:生田・加賀)

10 Give me 愛 (飯窪・石田・佐藤・工藤・加賀・横山)

11 Please!自由の扉 (小田・尾形・野中・牧野・羽賀・加賀・横山)

12 女子かしまし物語 ('17Ver.)

13 Loving you forever

MC3(THE INSPIRATION! 羽賀朱音初監督作品「こんな気持ち…初めて」上映)

14 モーニングコーヒー

15 メドレー

HOW DO YOU LIKE JAPAN? ~日本はどんな感じでっか?~

~TOP!

ワクテカ Take a chance

~いきまっしょい!

~Moonlight Night~月夜の晩だよ~

~What is LOVE?

MC4(煽り)

16 青春Say A-HA(新曲)

17 君の代わりは居やしない

18 わがまま 気のまま 愛のジョーク

MC5(挨拶)

19 インスピレーション!

ENCORE

20 ジェラシー ジェラシー

MC6

21 Happy大作戦

22 ブラボー!

6月21日(水)アンジュルム新曲リリースイベント@ららぽーと豊洲

 アンジュルム豊洲でのリリイベは久しぶり。一部は悪天候により握手のみ。二部は天候回復により実施というなかなかヲタにはきついスケジュール変更。なにせライブあとに握手せずに帰ってしまうアンジュヲタは多いからね。ライブ命。セトリは下記。

  1. 愛さえあればなんにもいらない
  2. MC自己紹介
  3. ナミダイロノケツイ
  4. 忘れてあげる
  5. 夕暮れ恋の時間
  6. MC曲紹介
  7. 魔女っ子メグちゃん

 MCトップパッターのかっさーが6/21はアンジュ加入を告げられた日、と興奮気味に語りヲタもすっかりおめでとうモード。(メンバーは知らなかったんかい)加入して半年くらいは堅かったかっさーも今ではすっかり表情も柔らかくなり、また変わり者の片鱗も見せつつすっかりアンジュに馴染んだようで先々が楽しみ。

 夕暮れ恋の時間で沸いてしまうのはやはり成仏できないスマヲタ多数ということか。武道館でも見たはずだがやはり距離が全然違うせいか細部がよくわかる。最近のハローの豊洲でのリリイベは人多すぎでことごとく外しているので悪天候はむしろ僥倖か。あやちょがMCで雨のおかげで授業休講、そして急きょのアルチンボルト展は空いてて良かった!と嬉しそうに語っていたが豊洲も同様に雨のため躊躇したヲタは少なからずいたはず。職場から歩いて2-3分の筆者にはまさに願ってもない状況ではあった。ちなみにアルチンボルト展はいつ行っても空いてると思うぞあやちょ。。。

 さて、愛さえあればのワルツの手拍子はそろそろこなれてきたところ。そこ以外にヲタの見せ場がないのはちと寂しい。ナミダイロノケツイは全部片仮名で書くとちょっといやらしいタイトルの割に泣かせる曲。どう聞いてもあいあいを待ってるというメッセージの歌詞にむろ、りかこ、かみこという歌メン。たしか6月いっぱいまでは活動しませんとのことだったはずだが7月以降の復帰は如何に。パニック障害がどれほど重い症状なのかは不明だが、過去のハロプロで何らの疾患を利用に休業したメンバーで戻ってきた者はいないだけに望み薄か。それにしてもこの曲、中盤のビートルズストロベリーフィールズみたいなふわふわしたオルガンの音がいい味出してたり全体にアレンジも凝ってるし泣かせどころ多数で好き。

 曲紹介ではみな言うことがなくなってきたせいかあやちょがMV撮影時の会場のトイレの話を始める始末。りなぷーとたけちゃんに「それ今言う必要ありますか?」とクールな突っ込みをくらい

 そして先月の武道館でも感じたことだがかっさーの表情がよくノリノリ。魔女っ子メグちゃんでのほぼセンターでの歌割メインが効いているのか終始にこやか。握手会でもトリを務めて去り際に大きく手を振って愛想を振りまくなどサービス精神も旺盛。心なしか彼女のメンバーカラーであるホットピンクのサイリウムも増えたようで(かななんのピンクと判別が難しいのでおそらく双方とも自分のサイだとおもっているだろう)それも自信につながっているのかも。今日は握手先頭のあやちょと目線がバッチリ合ったのでそれだけでも生きてて良かったレベルの充実したイベ。