AKB48 49thシングル選抜総選挙雑感

 617日(土)にAKB48の第9回総選挙の開票が行われ、総投票数は過去最多の3382368票を集め、同じく過去最多の246376票を獲得した指原莉乃3連覇を果たした。初めての沖縄での開催、そして悪天候による開票イベントの中止と無観客開票、須藤凛々花の結婚宣言などの話題により今年も注目を集めたアイドル界の一大イベントについての雑感を記す。

 昨年、初めて前年実績を割った総得票数は回復、過去最多を記録した。同様に過去最多得票を集めて1位をキープした指原だが、ここ数年、得票からは指原の独壇場となっていることが見て取れる。ここ3年ほどの総得票数は多少の増減はあるものの大きく変わらない。一方で明らかにかつての神セブン、上位7名の全体に占める得票比率は右肩下がりで寡占化は緩和され全体的にはいよいよロングテールの様相を強めている。その中で1位獲得者の得票比率だけが上昇を続けており明らかに指原一強の様相を呈しているのである。

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 かつて地上波の常連だったAKB48のメンバーながら昨今は乃木坂などに押され振るわない中、その類まれなるトーク能力によりバラエティで引っ張りだこの指原のみが芸能人として突出した知名度を誇る一方で残るメンバーの支持が伸び悩むのはある意味当然とも言える。バラエティ番組を見て指原のファンとなり彼女のAKB48としての活動にまで踏み込む者がどれだけいるかは未知数だが、元々の指原ファンであれば他のメンバーよりも彼女の活躍する姿を見る機会が増えることは確かであり、それがまた彼女への支持を強固にしているとは言えるのかもしれない。それがAKB48にとって歓迎すべきことなのかはわからないが、アイドルファン、特にハロプロ好きとして知られる彼女が様々な場でモーニング娘。に言及している事実はハロヲタとして有り難く感じているのもまた確かである。

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 古参の上位メンバーの卒業や参加辞退により順当に繰り上がったメンバーが多い中、今年の目玉はやはり荻野、中井といった新潟勢であろう。また昨年は圏外で得票が速報値しか明らかでないため比較のベースとするには問題があるが前年比で2817%(つまり約30倍)と激増させた荻野由佳、1097%(約10倍)中井りかの他、860%の後藤楽々(SKE48のチームE)、834%福岡聖菜AKB48チームB)、688%加藤夕夏NMB48チームM)、658%市川美織NMB48チームN)、508%村瀬紗英NMB48のチームBⅡ)など前年の数倍もの得票を獲得するメンバーが少なくなかったことが特徴的と言える。これは昨年、前年比で一番伸ばした向井地美音の伸長率が156%に過ぎなかったことを考えるといかに大きな振れ幅であるかよくわかるだろう。昨年の得票が少なかったことによる反動と言えるが過去このように前年比で数倍から数十倍という等比級数的な伸びを示したメンバーはいなかっただけにこの変化は注目される。かつて神セブン全盛期はTVへの露出がそのまま総選挙の順位に反映されていたが先述したように指原以外は地上波で見ることすら珍しくなっってきただけに、マスメディアを介さない活動がより重視されてきていることを示すのだろうか。例えばShowroomでは24時間常に48グループの誰かが配信を行っており多数の視聴者を集めている。こうした遠隔地であってもメンバーの素の姿を映像と音声で感じることのできるプラットフォームの普及はロングテールのテールにあたるメンバーにも等しくチャンスを与えているということができるのか。今後の動向が注目される。

 さて須藤凛々花である。個人的にはアイドルとファンは虚像としてのアイドルに纏わる世界観の共同構成者であり、共同制作者であり共同受益者であると理解している。その関係性は不文契約のような不文律に支配されており、その虚像の核心ともいえるべきアイドルの処女性については過去も含めて神聖にして侵すべからざる領域であり、暗黙の了解によりその神域に踏み込むことは何人たりとも許されない。それについての神秘性の保守はアイドルによる善管注意義務とも呼ぶべき最低限遵守すべきルールである。須藤はその基本的責務を自ら破った挙句にファンへの感謝を述べるべき場において虚構を虚構であると宣言することでその関係性を規定する双務契約を一方的に破棄した点について断罪されるのは当然である。しかしながら「初めて人を好きになりました」という彼女の言葉の物悲しい響きはどうだろう。渡辺麻友をはじめとする現役のメンバー、OGも含めてAKB関係者は概ね彼女の言動に否定的であるという(以前、こじはるに対して「総選挙で結婚発表したらおもしろい」と発言していた秋元康は別として)。それは彼女たちが虚構を演じるために払ってきた努力と犠牲を無にするものだからだ。まゆゆの「やってくれたな」と言わんばかりの苦悶の表情は須藤の発言と対をなす今回のハイライトだろう。ファンのために青春を捧げ虚構の維持のために自ら進んで殉じるまゆゆの敗北の瞬間である。虚構などないと宣言し自らの人間性を開放してしまった須藤の体現した容赦ない現実性を前にアイドルファンはまた自らの献身により支えてきた虚構の伽藍を前に煩悶するのである。