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研究テーマとしてのアイドル

 社会人大学の博士課程後期に在学するminimoniusです。修論は在職中の会社の組織に関するテーマで書きました。イノベーション創発するグローバル組織とはどのようなものか。会社をめぐる環境が激変する中、従来、本社を中心とする開発体制からグローバルに偏在する知のリソース活用の方向へ。初めて海外子会社のマーケティング部門の発案による製品企画が採用されるまでのプロセスや組織の変化についてイノベーションの観点からまとめたものです。

 博士論文では修論における組織論を出発点にさらに顧客とのサービス価値共創へと展開する予定だったのですが、企業をめぐる環境は常に変化し続けます。自分の職場でのポジションも一定ではなく、役割定義も変わる中、業務の上で必要な情報にアクセスすることが難しくなってきました。

 一般的なテーマを扱うのであればアカデミックな世界で長年研鑽を積まれた研究者に分があるわけで、社会人として研究を行う以上、実際に現場で業務に携わる中で得られる知見を活かすことを期待されます。業務上の課題を研究テーマとし、学術的な観点から問題をとらえることで実務にそうした研究成果をフィードバックすることに意義があるという考え方です。

 とはいえ修論のテーマを推し進めるにはかなり無理のある状況に陥ってしまいハタと考えました。現場における知見…これは必ずしも会社での業務に限らないのでは。そうです。在宅では得られない現場派としての知見を今こそ生かすべき、との判断から長年ゆる~くではありますが現場で培ったアイドルヲタクとしての知見を学術的観点から考察すべきとの結論にいたったのです。

 アイドルという題材は今や若者にとって身近なコンテンツですから学生の卒業論文のテーマとしてかなりの頻度で取り上げられているようです。特にポピュラーミュージック産業のビジネスモデルを根本的に転換してしまったAKB48や担当制や同担禁止などの特殊なジャーゴンを多用する閉じた文化圏を形成するジャニーズに関しては類挙に暇がありません。その切り口も文化人類学的観点だけでなく経済学、経営学ジェンダー論を含む社会学やファンの熱狂を宗教とみなす立場まで百花繚乱です。

 社会人として、また知識科学を専攻する博士課程の研究者としてアイドルというテーマを扱う意義はなんでしょうか。学術上のテーマには新規性が求められます。また研究に値するテーマであるか。具体的には切り口の問題ですね。アイデアはありました。冒頭でも少し触れたサービスという観点です。

 サービスについてはアメリカを中心としてマーケティングの分野での研究が盛んでしたが、90年代後半に同分野での一人者であるLovelockが従来のマーケティングに関する切り口ではサービスの全容をとらえるのに限界があるとの問題意識を提示します。それを受ける形でGrönroosのサービス・ロジックやPrahaladのValue Co-creationなどの概念が提示されましたが2004年、VargoとLuschによって「すべての経済活動はサービスである」とするService Dominant Logicが提唱され、その後のサービス研究の流れを大きく変えました。

 Service Dominant Logic(以下S-DL) に対置される概念として Goods Dominant Logic (以下G-DL)があります。これはモノの交換価値に主眼を置いた考え方ですが、S-DLではモノ自体に価値はない、それを顧客が利用して初めて価値が生ずるとする考え方です。その意味でサービスは提供者と需要者、つまり顧客による価値の共創であるととらえます。

 アイドルのライブに参加するとサービス提供者であるアイドルと顧客であるファンによる「価値共創」という概念が自然に理解できます。アイドルが歌い踊るだけではライブは成立しない。そこにファンがいることで価値が生まれ、さらにファンによるコールなどの自発的な参加により価値が増大します。

 S-DLによりすべての経済活動をサービスととらえる潮流は製造業にも波及しコマツのKomtraxが注目を浴びるなど、製造業のサービス化は今、経営学におけるとてもホットなテーマのひとつとなっています。そうした学術的な文脈の中で、顧客との価値共創がもっとも鮮明に表れるアイドルの現場を研究対象として扱うことは十分に時宜にかなった選択だとは思いませんか。

 というわけでこのブログはフィールドワーク、参与観察の記録、備忘録としてアイドルのライブ、リリースイベントへの参加記録や関連する書籍、論文、記事などのメモ、感想などを中心に投稿していきます。